一般的にピルとは、女性ホルモンである卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲステロン)が含まれている薬です。
その中でも、
エストロゲンとプロゲステロンが両方とも少量含まれているものを「低用量ピル」
プロゲステロンだけのものを「黄体ホルモン薬(ミニピル)」
と呼びます。(正確には、海外でminipillといわれる「避妊効果のあるプロゲステロン薬」で日本で認可されている製剤はありません。)
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低用量ピル
低用量ピルとは
低用量ピルは、毎日同じ時間に服用することで、血中ホルモン濃度を安定させ、卵巣からの排卵を抑制します。
正しく服用されていると排卵が抑制されるため、経口避妊薬(OC; Oral Contraceptives)といわれます。その使用経験の中で、月経量が減少して痛みが和らぐということが分かり、月経困難症(生理痛など)の治療に使用されるようになりました。月経困難症の治療目的で使用される場合、LEP(Low dose Estrogen Progestin)と呼び、保険適用で使用できます。
保険適用の場合は、使用できる種類が限られており、当院ではドロエチ、フリウェルを院内処方で採用しております。(保険ピルはその他の種類に関しては院外処方で処方可能です。)
自費のピル(OC)は、ラベルフィーユ、ファボワールを院内処方で採用しております。
低用量ピルは周期投与(1ヶ月サイクル)のおくすりがほとんどですが、一部連続投与(2〜4ヶ月サイクル)ができるおくすりがあります。
周期的とは毎月出血が起こりますが、連続投与の場合は最大4カ月ごとに出血します。ピルを服用していても、もともと排卵機能に問題がなかった場合、服用を中止後、3ヶ月以内に排卵が再開します。
ピルには、プロゲステロンの種類により効果や副作用が異なります。プロゲステロンの違いにより「世代」という表現で区分されています。
どのピルがどの世代か、どういう違いがあるのかに関しては、診察でお話し、その方に合ったピルをご一緒に考えさせていただければと思います。
当院では、院内処方として
保険ピル(LEP)
- フリウェルLD
- フリウェルULD
- ドロエチ「あすか」
自費ピル(OC)
- ファボワール28
- ラベルフィーユ28
をご用意しております。
保険のピルで、当院に在庫がないものに関しては処方箋にて対応させていただきますが、今後ご要望の多いピルに関しては種類を増やすことも検討してまいります。
ピルに関する豆知識
2019年の国連の発表した資料によると、15〜49歳の女性の低用量ピル普及率は日本では2.9%ですが、驚くべきことにカナダ28%、西ヨーロッパ諸国の平均は31%なんと約10倍も多いそうです(Contraceptive use by method 2019, United Nations)。
ピルは、世界的にみると本当に一般的に使われ、広く普及しているおくすりということがお分かりいただけると思います。
ピルは、自然な生理をなくさせるので不安という方もいらっしゃいます。
それではこんなお話を。昔の女性が一生で迎える月経の回数は約50回だったといわれています。
なんと、現在では、それが約500回と10倍も多いといわれています。
これには様々な理由があり、初経年齢が若年化していること、出産回数が大幅に少なくなっていること(昔は5人10人産む方も少なくなかったそうです)などがいわれています。
これは、様々なリスクを生じます。エストロゲンにさらされる機会が多くなることで、子宮内膜症や子宮筋腫が生じ、生理を繰り返すことで症状がひどくなったり、どんどん大きくなったりします。
また、乳がんを生じるリスクや、排卵回数が増えることで卵巣がんのリスクが高くなるということもいえます。
ピルは、エストロゲンの波を抑え、また内服中は排卵しないため、これらのリスクを減らしてくれます。
期待できる効果
(正確に内服できた場合)
- 避妊効果率は99.8%
- 生理痛の緩和
- 月経量の減少
- 子宮内膜症、卵巣がん、子宮体がんの予防
- ニキビの改善
副作用
低用量ピルの副作用として、以下のような症状が起こる可能性があります。
服用開始後数日間は、吐き気や胃もたれ、乳房の痛みなど、生理前の症状に似た症状が出ることがあります。
これらの症状は、多くの方は3カ月以内に徐々に落ち着きます。少量の不正出血も見られることがあります。
- 吐き気や胃もたれ
- 浮腫み
- 乳房の痛み
- 頭痛
- 血栓症のリスク上昇
- 少量の不正出血
- 性欲低下
低用量ピルの禁忌
服用できない方の条件
🚫 絶対禁忌
(絶対に服用できない)
- 重度の高血圧(収縮期血圧160mmHg以上 または 拡張期血圧100mmHg以上)
- 血栓症の既往またはリスクが高い方
- 深部静脈血栓症(DVT)
- 肺塞栓症(PE)
- 脳梗塞、心筋梗塞
- 血栓症の家族歴がある方
- 高度な肥満(BMI 30以上)かつリスク因子を持つ方
- 35歳以上で1日15本以上喫煙する方
- 重度の肝障害がある方
(肝炎、肝硬変、肝腫瘍) - 乳がん・子宮頸がんなどのホルモンに関わる腫瘍がある方
- 妊娠中・妊娠の可能性がある方
- 原因不明の不正出血がある方
- 授乳中(特に産後6か月以内)
⚠️ 原則禁忌
(慎重に判断して服用すべき)
- 軽度の高血圧(収縮期140–159mmHg、拡張期90–99mmHg)
- 30歳以上で喫煙している方
- 軽度の肝障害がある方
- 片頭痛(特に前兆を伴うもの)
- てんかん発作の既往がある方
- 糖尿病(特に合併症を伴う場合)
- 血中脂質異常症(高コレステロール・高トリグリセリド血症)
- 乳がんの家族歴がある方
🔔 ご注意ください
- 服用前には必ず医師による問診・血圧測定・既往歴確認が必要です。
- リスク因子が複数重なる場合は、服用できないことがあります。
低用量ピルと併用に注意が必要な薬剤・食品について
ピルの効果に影響を与えるお薬やサプリメントがあります。服用中・新たに処方された際は、必ずお伝え下さい。
🚫 併用できない薬剤
- ヴィキラックス配合錠(C型肝炎治療薬)→ ピルとの併用は禁止されています。
⚠️ ピルの効果を弱めるお薬
- 抗生物質
(テトラサイクリン系・ペニシリン系) - 抗てんかん薬(フェノバルビタール・フェニトイン・カルバマゼピン)
- 精神刺激薬(モダフィニル)
- 抗結核薬(リファンピシン・リファブチン)
- 抗HIV薬(非ヌクレオシド系逆転写酵素阻害薬・HIVプロテアーゼ阻害薬)
注意:これらを服用すると、避妊効果が低下する可能性があります。
⬇️ ピルの効果を高めるお薬
- 抗真菌薬(フルコナゾール・ボリコナゾール・イトラコナゾール)
- 解熱鎮痛薬(アセトアミノフェン)
注意:副作用のリスクが高まる場合があります。
⬇️
ピルによって効果が弱まるお薬
- 血糖降下薬(インスリン・スルホニルウレア系)
- モルヒネ
- 解熱鎮痛薬(アセトアミノフェン)
⬇️
ピルによって効果が高まるお薬
- 副腎皮質ステロイド
(プレドニゾロンなど) - 三環系抗うつ薬
(アミトリプチリン・イミプラミン) - 免疫抑制剤(シクロスポリン)
🌿 食品・サプリメントの影響
- セントジョーンズワート(西洋オトギリソウ) → 効果を大きく減弱させます。
- アルコール、グレープフルーツ、カフェイン → 軽微な影響があります。
ピルのを飲み忘れたときの対応
⏰ 1回飲み忘れた(24時間以内)
- 気づいた時点ですぐに1錠飲む
- その日の分も通常どおり決まった時間に飲む
(=1日合計2錠飲むことになります。気づいた時間が内服時間でしたら、同時に2錠飲んでいただいて大丈夫です。一時的に気持ち悪さや熱っぽさなどが出ることがありますが、1日以内で徐々に収まります。) - その後も通常通り内服を続ける(多少出血があっても心配なさらないでください)
👉 追加の避妊方法(コンドームなど)は推奨はしますが必須ではありません。
その1回のみで他の日が正確に内服できた場合、90-95%の避妊効果があるといわれています。1錠を飲み忘れても、血中ホルモン濃度は急激に大きな低下はないため、すぐに排卵が起きるリスクは高くないためです。ただし不安な場合は、念のため1週間避妊していただくと安心です。
※ただし、シートの1周目(シート開始より7日以内)に飲み忘れた場合は、妊娠のリスクは上昇するため、他の避妊方法を併用されることをおすすめします。
⏰ 2回以上連続して飲み忘れた(24時間以上)
- 直前に飲み忘れた1錠だけすぐに飲む
(それ以前の飲み忘れは飛ばしてください) - その後、通常どおり1日1錠続ける
- 7日間はコンドームなど追加避妊が必要
👉 特にシートの最初や最後で飲み忘れた場合は、妊娠リスクが高くなります。必要に応じて医師に相談してください。
⏰ 2日以内の飲み忘れの場合
少量出血が続く場合がありますが、気になさらず内服を継続してください。
生理のような出血が見られる場合には、一旦休薬し、次の生理が来るのを待って、そのピルの内服開始タイミング(多くは生理1日目)より内服してください。
⏰ 3日以上の飲み忘れの場合
一旦休薬し、次の生理が来るのを待って、そのピルの内服開始タイミング(多くは生理1日目)より内服してください。
🚨 こんなときは要注意
- 1週目に2錠以上飲み忘れた
- 3日以上飲み忘れた
👉 この場合は、避妊効果は50%以下になる場合があります。避妊をご希望される方は必ず他の避妊方法を併用してください。
他の避妊方法を使用せず性行為があった場合は緊急避妊(アフターピル)が必要になる場合もありますので、心配な方はご受診ください。
費用【自費ピル】
項目 | 費用 (診察料別途・税抜) |
---|---|
ラベルフィーユ |
2,300円 (1シート) |
ファボワール |
2,300円 (1シート) |
- 初診料と初回指導料の合計:2,000円(税別)/
再診料:1,000円(税別)がかかります。 - 通常、初回ピルの場合は1シートからの処方になりますので、初診1シート処方の場合のお支払額は4,730円(診察料、税込)
以前に同じピルをお飲みで継続の場合、初診3シート処方の場合のお支払額は9,790円(診察料、税込)
再診3シート処方の場合は8,690円(診察料、税込)となります。 - また、安全にピルを内服していただくため、初回及び1年に1度は採血(4,000円)・子宮頸がん検診(4,000円)・経膣超音波検査(3,000円)をおすすめしております。
よくある質問
低用量ピルの服用法はどんな感じですか?
低用量ピルを毎日同じ時間に、1錠ずつ服用しましょう。
種類により飲み方が異なりますので、それぞれの内服方法をお伝えいたします。
低用量ピルを服用してどのくらいで効果を実感できますか?
効果の実感には個人差がありますが、早い方では1ヶ月、多くの方は3カ月程度服用を続けると効果を実感されます。
ピルは、1ヶ月飲んで終了するというようなものではなく、治療計画を立て、少なくとも半年、できれば年単位で内服することでメリットを感じられるおくすりです。
効果を得るには、正しい服用方法を守り、継続的に服用し続けることが大切です。
他の薬と低用量ピルを併用できますか?
上記の表をご参照ください。
低用量ピルを服用し忘れた場合、どう対処すればいいでしょうか?
飲み忘れ | 対応 | 追加避妊 |
---|---|---|
1回(24時間以内) | すぐ飲んで、当日分も通常どおり飲む | 推奨(できるだけ行う) |
2回以上 | 最後に飲み忘れた1錠を飲んで、続ける | 必ず必要(7日間) |
特に1週目に飲み忘れた場合 | 医師に相談、アフターピル検討も | 必ず必要 |
低用量ピルを使用する際の留意点は何ですか?
内服を開始して、特に6ヶ月以内は血栓に関して留意する必要があります。
血圧や血栓による症状がないかは毎回の処方時に確認いたします。
低用量ピルに年齢制限はありますか?
初経が来ていれば、内服開始は可能です。まずは医師にご相談ください。
黄体ホルモン
(プロゲステロン)薬
黄体ホルモン
(プロゲステロン)薬
黄体ホルモン薬は、「黄体ホルモン(プロゲステロン)のみ」が含まれた経口避妊薬です。エストロゲンを含まないことから、「プロゲストーゲン・オンリー・ピル(POP)」とも呼ばれています。海外で「minipill」として使用されている避妊薬は、日本国内ではまだ認可されていません。海外の黄体ホルモン薬は、ごく少量のプロゲステロンで排卵を抑制する設計になっており、避妊効果が期待できます。
一方、日本で処方されるプロゲステロン単剤は、含有量が異なるため、稀に排卵が起こる可能性があり、完全な避妊は保証されていません。そのため、妊娠を望まない場合には注意が必要です。日本で使用されるプロゲステロン製剤の最大の目的は子宮内膜症や腺筋症、月経困難症に対する疼痛の改善目的です。
エストロゲンを含まないという特性により、黄体ホルモン薬は血栓症のリスクが非常に低いとされており、以下のような方におすすめです。
黄体ホルモン薬はこんな方におすすめです
- 月経困難症でお悩みの方
- エストロゲンを含むピルの服用が難しい方
- 40歳以上で、従来の低用量ピルの継続が難しくなってきた方
- 血栓症のリスクが高い方(喫煙、既往歴など)
なお、日本では保険診療で使用される黄体ホルモン単剤(ディナゲストなど)を、一般的に「ミニピル」と呼ぶことがあります。
当院の院内処方
当院で処方可能な黄体ホルモン薬はジエノゲスト(ディナゲスト)のみで、セラゼッタ等の国内未承認薬のお取り扱いはありません。
黄体ホルモン薬の効果
① 子宮内膜症の症状をやわらげる
- 子宮内膜症により引き起こされる月経痛、骨盤痛、性交痛などを軽減します。
- 黄体ホルモン作用により、子宮内膜の増殖を抑えるため、症状が徐々に和らぎます。
② 月経量を減らす
- 子宮内膜が厚くならないため、月経量が少なくなったり、月経がなくなることがあります。
- 月経に伴う不快な症状の軽減にもつながります。
③ 卵巣機能を抑える(排卵を起こりにくくする)
- 排卵を起こりにくくすることで、子宮内膜症の進行を防ぐとともに、卵巣嚢腫の再発予防にも効果があります
飲めない方
以下の項目に該当する方は、黄体ホルモン薬の服用ができません。
- 原因の分からない異常な性器出血がある方
- 妊婦、または妊娠している可能性がある方
- 以前にこのお薬に含まれる成分で、発疹などのアレルギー症状があらわれたことがある方
- 子宮が非常に大きい方
- 重い貧血がある方
服用方法
黄体ホルモン薬は休薬期間がなく、基本的に消退出血が起こらない避妊薬です。低用量ピルとは異なり、生理のような定期的な出血がない点が特徴です。
注意事項
初回は、生理開始2-5日に服用を始め、その後は1日2回毎日同じ時間に飲みます。
内服時間のずれは不正出血の原因にもなるため、可能な限り一定の時間に服用することが大切です。
副作用
副作用の種類 | 症状の例 | 頻度(目安) |
---|---|---|
不正性器出血 | 茶色いおりもの、出血がだらだら続くなど | 約30~70%と非常に多い |
頭痛 | ズキズキする・重い感じ | 約10~20% |
乳房の痛み・張り | 圧痛や違和感 | 約10%前後 |
消化器症状 | 吐き気・胃のむかつき・便秘・下痢 | 約5~10% |
気分変調 | 情緒不安定・抑うつ気分 | 約5%前後 |
ほてり・のぼせ | 更年期様のほてり | 約2~5% |
にきび・肌荒れ | 吹き出物、乾燥など | 約1~5% |
体重増加 | 食欲増加・むくみなどによる | 約1~2% |
黄体ホルモン薬に最も頻度の高い副作用は不正出血ですが、内服を継続すると3ヶ月、6ヶ月と徐々に減少して来る方が多いです。
よくある質問
黄体ホルモン薬を服用中に注意が必要な薬はありますか?
以下の薬剤はミニピルと相互作用し、血中濃度に影響を与える可能性があるため注意が必要です。 該当する薬を服用中の方はご相談ください。
- 抗HIV薬
- 抗結核薬
- C型肝炎治療薬
- 肺高血圧治療薬
- 高血圧・狭心症・不整脈治療薬
- 抗てんかん薬
- 双極性障害治療薬(ラモトリギン)
- 免疫抑制薬(シクロスポリン)
- 抗生剤(クラリスロマイシン、エリスロマイシン)
- 抗真菌薬(ケトコナゾール、イトラコナゾール、フルコナゾール)
- セントジョーンズワート(ハーブサプリメント)